WELD SUPPLY CO.
Journal #088

今、現在そして未来

Merry Christmas !!
名古屋の街もこの寒い中、心なしか普段より人が多いように感じられます。

私はというと、
今、私用で軽井沢に来ております。
(このブログを投稿する頃には名古屋に戻っておりますが)

軽井沢といえば夏。当然、避暑地ですからね。

でもまあ訳あって冬の軽井沢にいるわけです。

なんですかね、ここは。このおっとりとした時間は。

寒い手をこすり合わせて、鼻のてっぺんまで覆ったマフラーを通して
自分の吐く息が真っ白く、でもあたたかい。

今現在、夜の9時30分。

軽井沢の夜は早い。特に冬は。
みあげもの屋や商店は一つも開いているところがない。
見えているのはオレンジ色の白熱球の灯りと、
煙突からゆっくり濃紺の空に伸びる暖炉の煙くらいなものだ。

せっかく来たんだし、この風景を少しでも長く楽しみたいということで、
こんな寒空の下、1人で出かけているのである。

今現在、氷点下-5℃。

話題の温泉旅館の敷地内を抜け脱し、
通りを渡って向かいの森の中にあるホテルを目指す。

濃紺の空にギザギザとした真っ黒の輪郭の森は、
少し恐ろしく思えるほど静まり返っている。

この軽井沢という雰囲気がなかったら、
私は物音一つ聞こえるだけで、振り返りざまに誰ー!誰ー?と声を張り上げて
小学生のように足の震えをごまかしていただろう。

今現在、ホテルに続くアスファルトの中央線の上。

なぜ私が快適な温泉旅館の宿を抜け出して、
通り向かいのホテルを目指しているかというと、
クリスマスツリーが見たかったからである。

この温泉旅館に来る途中に乗ったタクシーの運転手が、
「冬の軽井沢は夜は何もすることがないよ。
でもあそこのツリーは綺麗だから見て見てはどうか」と教えてくれたからである。

思えば12月に入ってからというもの、
クリスマスツリーを私は毎日見ている。

毎日必ず通る道にツリーがあるからだ。

でもこの歳になると、クリスマスツリーに特別な興奮や感慨を覚えることはまず無い。

この時期の当たり前の風景、当然のように私の目に馴染んでいるからだ。

今年もこんな季節か、早いな。くらいのものである。

今現在、夜の9時38分。

ホテルに続く坂道を滑って転ばないように、
一歩一歩足の裏で路面を感じながら歩く。

時折、後ろから眩しい光とともに
タクシーが数台私を追い越していった。

しばらく登るとホテルの先っちょが見えてきて、
丘の上はどうやら少しオレンジに明るいようである。

今現在、ホテルへ続く坂の、ちょうど一番上。

そもそもクリスマスツリーとは何なのか。
Wikiるために手袋を脱いで調べたが、
各国の宗教的な歴史が書き連ねられていて結局よくわからない。

私はクリスマスのこのハッピー空気が好きなのであって、
とりわけクリスマスツリーには特別思うことがない人間なのだ。

そんな私がクリスマスツリーを見ようというのである。

そうこうしているうちに、どうやらこの林の中に
タクシーの運転手がいっていたクリスマスツリーがあるようである。

今現在、深い漆黒の林の中に眩い輝きを放ち、それはあった。

数百の輝きに包まれた、それはそれは美しいクリスマスツリーが立っていた。

感動しているのか、私は。
実際に生えている生の木に、最低限のライトアップと、目映い光とオーナメントの数々。
そのすぐ奥にはクリスマスツリーの灯りでうっすらと姿を現した協会。
そしてツリーの周りには何百の小さな炎をともしたキャンドル。

「夕方になると人の手で何百というろうそくに火を灯し、
そして10時にはまたそれを人の手で一つづつ消していく。それを毎日です」

そんなタクシー運転手の言葉もあったのだろう。
私は感動していた。

今現在、私はクリスマスである。

目の前に、確かにクリスマスが存在していた。
ツリーがあったというよりは、確かにクリスマスがそこにあったと私は感じたのである。

来る途中、私を抜かしていったタクシーは、
そのほとんどがカップルを乗せていたのだろう。
数組のカップルがこのツリーの周りにいて、身を寄せ合ってはいるが、
誰も話してはいなかった。
そんな空気がそこにはあったのである。

今現在、夜の9時55分。

温泉旅館を出てまだ30分も立っていない。
なのになぜだろう、この数分がこんなにゆっくり流れたのは
子供の頃の夏休み、誰とも遊ぶ約束のない日の午後以来かもしれない。

仕事があると毎日時間に追われて、
何か私はじっとつっ立っているのに、
時間という向かい風が私の周りを猛スピートで通り過ぎていっているような感覚。

でも今は違う、冬の夜空の色を感じて、
静かな森に少しだけ恐怖心を抱いたり、
坂の滑りやすくなった路面を敏感に感じ取ったり、
灯されているツリーの炎に、なぜか人の温度や痕跡を感じたり。

考えたり感じたりすることに溢れていた、
そのほんの数分が何とも愛おしいものに感じられた。

時の流れるスピードは自身の感情が溢れている時、
その歩みを、少しだけ緩めてくれるのかもしれないと
私は想った。

来てよかった。足元に転がる木の実を、
スニーカーの足先でころころ転がしながら、
自分には眩しすぎる、このクリスマスツリーから目を足元にやり、
心を落ち着かせた。

すると背後から、

「あれー?兄ちゃんじゃない?つーか一人!?ウケるwwはははは、やばーーw」

一瞬、耳を疑った。が、違う、疑いようが無いこの声、我が妹である。

私「なっ何をしてるんだよ、温泉行ったんじゃないの?汗」

妹「ツリー見に来たに決まってんじゃん!つーかめっちゃ綺麗ー!めっちゃ明るい!めっちゃツリー!つーか寒い!ははは」

私「…」

妹の旦那「お兄さん、寒いですし一緒にシャトルバスで帰りましょう」

私は「あっああ、、」

そう言って妹夫婦は足早にシャトルバスの停留場所までスタスタと歩いていってしまった。

「つーかマジ綺麗だったよね、ツリーだよね、マジツリーだったし、てかバス来てるし、
てかキャンドル毎日つけるとかマジですごくない?そして消す!みたいな!はははは私だったら絶対無理だしーはははは」

今現在、揺れるシャトルバスの一番後ろの窓側

まだガヤガヤやっている妹夫婦。
不覚をとった私は一人ツリーをしたという恥じらいと、
妹という圧倒的な現実力の持ち主の登場に、さっきまでのセンチメンタルをどこに落っことしたか、
頭の中を探しまわるべく、妹夫婦とは席を離して一番後ろに座っている。

さっき歩いて来た道がみるみるうちに通り過ぎていく。
タクシーという現実の乗り物では、あっという間だ。
すぐに私たちの泊まっている温泉旅館が見えてきた。

温泉旅館。

なんだよw

こいつらも同じやんけ!だって温泉行くって!
きっと私と同じ時間が流れていたのだろう。
あの場違いな騒がしさも、おそらくは照れ隠しだろうw

安心せい!兄は何も見てはいない!

私「おい、お前ら!バーがあるらしいから飲みに行くぞ!」

妹「いや、私無理ー寝るし」

私「あ、ああ、はい」

今、現在
あなたは何を感じ何を想っておられるのか。

そして未来。

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